<タイムドメインスピーカーの知識>
2007/07/23 日記<タイムドメインスピーカー>
タイムドメインスピーカー
タイムドメイン・スピーカーとは、タイムドメイン社・由井啓之社長の提唱する「タイムドメイン理論」に基づいて設計されたスピーカーの総称。時々刻々と変化する音の波形を、忠実に再生しようとする観点から、設計されている。
機械設計における特徴
従来のスピーカーでは、周波数応答が広くフラットに再現されれば万全であるという視点で設計されている(「フリーケンシードメイン(周波数領域)理論」に基づく設計)。これに対し、「タイムドメイン理論」では、時々刻々と変化する音の波形そのものを正しく再現するために、スピーカーユニットから発せられる音の振動制御における問題ならびに設計に注視している。その実現のために、特に微小な信号の立ち上がりを妨害する不要な振動や共振を抑えることに重点が置かれている。このような設計方針は、従来のスピーカーの設計でも当然考慮されているもので、「タイムドメイン理論」でいうところのそれと全く異なるものではない(従来のスピーカー設計においても既に「タイムドメイン理論」が使われている)とされることもある。しかしながら、これを実現するために同社は、その設計方法のみならず、その評価方法についても、独自に評価ソフトを開発するなど、スピーカーならびにアンプも含めた機器の設計において、従来とは根本的に異なる手法を用いている。他のスピーカーに比べて半ば過剰品質とも思われる数々の機械設計上の工夫がなされているが、メーカーによればそれは波形の忠実再生のためには必要不可欠なものであると主張している。*スピーカーユニットの後部にグランドアンカーと称する錘をつけ、スピーカーユニットの慣性|慣性質量を大きくしユニットの振動を抑制して、振動板との相対位置を安定させる。グランドアンカーは、理想的には静止しているべきものであるので、その部分は「仮想地|大地」と呼ばれる。
一般にタイムドメイン領域の計測は、インパルス応答とステップ応答の2種類で考えられている。タイムドメイン社のユニークな点は、電気的な制御を加えずに徹底して機械的に制御していく点にある。一般にネットワークで複雑な電気制御を伴うスピーカーは完全にドライブするのが難しいという点も附記しておく。タイムドメイン領域でのフルレンジは、ステップ応答が自然なライト・アングル・シェイプを形成する一方で、分割振動によるインパルス応答の制御が難しく、この辺が機械的に過剰設計とも思われる固定方法を必要とする原因でもある。逆にマルチウェイでは、インパルス応答の優れたスピーカーは多いが、ステップ応答まで揃ったスピーカーは世界でも数社(QUAD, Thiel, Dunlavy, Spica, Vandersteen, Earthworks)に限られる。
電気設計における特徴
タイムドメイン理論は、スピーカーの発する波形の問題だけに留まるものではなく、アンプの設計にも及ぶものであるため、タイムドメイン社製のスピーカーにおいては、専用のアンプとの組み合わせ、もしくは内蔵された製品が提供されている。タイムドメイン社の推奨するアンプはモジュール化されたICアンプであり、出力の小さいかわりにスルーレイトの高いのが特徴である。同じ設計思想のアンプに47研究所の製品があるので参考にしてもらいたい。スピーカーとアンプを接続する線材(スピーカーコード)も、一般的に推奨されている太い物よりは、むしろ細いものを推奨している(ライカル線など)のも、やはりタイムドメイン理論による総合的な設計思想に基づくものとされている。
音の特徴
スピーカーから発せられる音は明瞭で定位感が高い。音が明瞭ということは、多くのHi-Fiスピーカーの場合、高域でのパルス性の立ち上がり成分を繊細かつ鋭敏に再生することにより達成されている。特に10kHz以上の音域は楽音では非常に小さいレベルの音であるにも関わらず、音の立ち上がり成分としては全ての波形が連動しているため、最近では連続音では可聴域外とされる20kHz以上の再生領域についても議論されるようになっている。タイムドメイン・スピーカーの発想はこれとは根本的に異なり、再生音域全体について波形の立ち上がりおよび立ち下がりの均質な挙動を保証しようとするものである。このことは波形再生について、これまで高域成分で人工的に補完されたリアリティに支配される再生理論からの脱却を意味している。時間領域で正確な波形再生は音の明瞭さを生み出し、ボーカル域での抜けの良さに留まらず、バスドラムのアタック音やベースラインの音程の明瞭さにも表われてくる。低音域についても波形再生の直線性が生かされてくる理由は、実際の波形では低音域の大きな波に高音域の小さな波形が刻まれるようになっており、この位相が崩れることでスピーカーの再生音には独特の癖が加わることになるが、タイムドメイン・スピーカーは音域の違いによる音の立ち上がりに癖が少なく、これらの複雑な波形のタイミングをあまり崩すことなく再生するため、低域の波形が高域にスポイルされず明瞭に再生される。低域の楽音は高域でのパルス成分の保証だけでは曖昧になりやすい部分である。音像の定位感については、これまでの多くのHi-Fiスピーカーは、振動板が軽く発声タイミングの早いツイーターが他のユニットを制して定位感を支配する傾向がある。これは一般にマスキング効果と言われ、人間の耳は1/1000秒程度でも早く出た音に敏感に反応し、その他の音の方向はあまり気にならないことが知られている。このことはツイーターの配置について時間的整合性を持たせようとタイム・アラインメント処理された場合でも、ネットワークの位相的くびれによって高域成分のパルス性の立ち上がりが強調される。このため、これまでのHi-Fiスピーカーの定位感はツイーターのマスキング効果に支配され、本来の楽音領域での定位性や遠近感を均質に再生することが難しい。マスキング効果に頼ったスピーカー設計の弊害は、マスターテープの磁気劣化でパルス成分の減退した古い録音で顕著に表われ、周波数特性はカマボコ型に感じサウンドステージの狭い音と感じる。逆に雑踏のノイズなどパルス性の強い音は、本来は遠くにあるものでも近くで聴いたようにはっきり聞こえるなど、音響的なパラドックスが顕著に表われる。こうした定位感の人工的な不自然さは、Hi-Fiの創生期に練られた音響心理学の成果でもあるが、逆にHi-Fi以後のオーディオ文化全般がこのような音響効果に支配されてきたともいえる。タイムドメイン・スピーカーの定位感は、周波数領域に支配されていた波形のタイミングを均質に計ることで、従来のHi-Fiスピーカーがもつパラドックスを解決する方向にある。音域に関わらず定位感が明瞭なので、楽器間のアンサンブルやミックスの意図が良く見通せる。一般に定位感の良いスピーカーは音源に対しシビアな傾向があり、サウンドステージを構成する裏舞台を暴いてしまう分析的な面があるが、タイムドメイン・スピーカーは録音されたシチュエーションへの柔軟性が高く録音のもつ音場にすぐさま追従する。そのため従来のスピーカーに比べ、スピーカー固有の音場を持たないように感じる。古い音源が明瞭に自然に聞こえることや、雑踏のノイズに広がりや遠近のあることなどが判るなど、これまでHi-Fiスピーカーの苦手としてきた録音についても、同じ波形再生の基本に戻って再現される。極端な話、モノラル音源でも音の遠近の再生は明瞭である。一方でフルレンジユニット単発で構成される限界もあることは確かで、重低音の音圧や高域方向のビームワイズの制限などはどうしても生じてくる。ウッドベースの空気感の再生は苦手であるが、音程やピッキングを正確に再生できるスピーカーは少ない。シンバルの金属的な響きが充満するような再生は苦手であるが、ブラシの上げ下げが明瞭に再生されるスピーカーはそれほど多くない。この辺がタイムドメイン・スピーカーをどう評価するかの分岐点であるように思える。あるいはユニットの改良で更に良くなる可能性も多少残されている。重低音の扱いについては、富士通テンがTD725swを出したことで新しい局面が生まれている。これまでの重低音はファンダメンタルな底鳴りが判定の中心であり、他の音域との立ち上がりの時間的整合性はあまり問題視されていなかった。30〜50Hz付近の風を切るようなコントラバスの重低音は判っても、70〜100Hz付近のバスドラのアタックや音程との整合性までは判断が付かなかった。つまり重低音と低音は別のものとして鳴っており、ひとつのパラドックスとして存在している。多くはバスレフの共鳴音による位相歪みと挙動の鈍重さが原因として挙げられ、挙動の不明瞭な重低音と中低音のダイレクトラジエーションが混在することになる。富士通テンの方法は基本的にダイレクトラジエ−ションのみに頼り、またタンデム方式でユニットのfoを下げることで保証領域を広げるようにしてある。この方式は共鳴室を設けた他の多くのサブウーハーのように、制動の効かない雰囲気だけの重低音とは一線を画す切れ味のある重低音で、重低音を楽音として再生することを目標とした技術陣の成果ではないかと思える。比較的小さな筐体でダイレクトラジエーションを達成したサブウーハーの開発により、タイムドメインの可能性がさらに広がっていることが伺える。富士通テンが本来得意とするDSPを用いた音場シミュレーション技術が生かされるところに来ているようにも思われる。また自然音での重低音は、多くは環境ノイズ(暗騒音)として混入してくる。極端な話、暗騒音の違いで部屋の広さが判るという場合があるし、ビルの谷間や広い聖堂などでは経験的に共鳴音の低さと持続性で空間性がただちに判る。一般にサブウーハーを設けると、全体の音場が広々として落ち着いたものになるが、これは部屋特有の暗騒音をサブウーハーの持続音に支配させるからに他ならない。この気配に似た音域は、通常のスタジオ録音では不要な音としてカットされているが、デジタル時代に入り積極的に取り入れたものもある。こうした録音効果にも追従性のある低音再生をフォローしているほか、楽音と暗騒音との分離も正確なので、今後の録音方法に一石を投じることになるのではないかと思われる。
サラウンドとの相性
立体音響の歴史は、1930年代に英国のブルムライン氏が開発したバイノーラル録音から発展したステレオ方式と、1940年代に米国のウェスタン・エレクトリック社の開発した劇場用3chから発展したサラウンド方式が存在する。ステレオ方式が視聴者の耳を中心に考えた音響であるのに対し、サラウンド方式は音響空間の再現を狙ったものである。タイムドメイン・スピーカーは基本的に家庭用のステレオ録音の再生を中心に考えられたものだが、サラウンド方式においても相性の良いことでも知られる。一般にサラウンドが最も使われるコンテンツは映画用DVDであるが、従来の分類ではミュージック、セリフ、環境音の順に再生能力の要求が高いとされてきた。これは扱う音域と音響出力の違いであり、また劇場でのエンターテインメントの文化を反映するものであった。ステージ側にある劇場用のサラウンド設備はスクリーンに大規模なメイン・スピーカーを置く一方で、ホールトーンを支配するサイドと後方のサラウンド用には20cm程度の同軸フルレンジが充てられている。このことから考えると、サラウンド音響で環境音の占めるファクターはそれほど重要性がないともいえる。しかし近年の映画音響では、環境音がミュージック・ソースを超える意味を持つことが多くなっており、従来のサブ・スピーカーの扱いではソースの表現しようとする音響空間を十分に再現できない可能性が出てきた。こうしたニーズのなかで、タイムドメイン・スピーカーの利点を挙げてみる。*サラウンドの位相変化はかなり複雑であり、これにスピーカー自身の位相的な癖が付加されることで、音響効果は大きく減退する。波形再生においてタイムコヒレンス(時間領域での整合性)を追求したスピーカーで再生されることで、ミックス時に意図した音響効果が再現しやすくなる。
賛否・評価
エピソードとして、タイムドメインスピーカーの音は、マイクロソフト社総帥のビル・ゲイツをして「わが家の7000万円のオーディオより良い音がする」と驚嘆せしめたという(ただしビル・ゲイツが試聴したのは、タイムドメインスピーカーの試作品だったという説がある)。このように国内外に熱烈なファンが存在する一方で、信奉者の狂信ぶり(ネット上には「会場のにおいまで感じた」「写真を撮ったらオーブが写った」といった熱狂的ユーザーの声もある)から「一種のオカルト」とする声もある。
製品
2007年9月現在の販売製品
*http://www.timedomain.co.jp/タイムドメイン社(奈良県):
mini
light
Yoshii9
http://next.rikunabi.com/tech/docs/ct_s03600.jsp?p=000725&__m=1/
Yoshii9のプロトモデル(写真)*http://www.eclipse-td.com/
富士通テン ECLIPSE TDシリーズスピーカー(兵庫県)
http://www.eclipse-td.com/j34_td712z/index.html
TD712z(スピーカー)
http://www.eclipse-td.com/td725sw/index.html
TD725sw(サブウーファー)
http://www.eclipse-td.com/j05_td510/index.html
TD510(スピーカー)
http://www.eclipse-td.com/j06_td508II/index.html
TD508 II(スピーカー)
http://www.eclipse-td.com/products/td508paii/
TD508PA II(スピーカー&アンプ)
http://www.eclipse-td.com/products/tda501ii/
TDA501(アンプ)
http://www.eclipse-td.com/products/td307ii/
TD307 II(スピーカー)
http://www.eclipse-td.com/products/td307paii/
TD307PA II(スピーカー&アンプ)
http://www.eclipse-td.com/products/td307thii/
TD307TH II(スピーカー&サブウーファー)
http://www.eclipse-td.com/j08_316sw/index.html
316SW(サブウーファー)*http://www.bauxar.com/
日本エム・イー・ティー(東京都)
http://www.bauxar.com/Marty101/
BauXar Marty101(2006年1Q)
http://www.bauxar.com/Jupity301/
BauXar Jupity301(2007年9月末発売予定)*三洋電機(大阪府)
http://www.e-life-sanyo.com/products/lcd/LCD-32HR100_S/index.html
LCD-32HR100(液晶テレビ)
http://www.e-life-sanyo.com/products/lcd/LCD-27HR100_S/index.html
LCD-27HR100(液晶テレビ)
上記のテレビ2製品に使用されたタイムドメインスピーカーについての説明*その他、タイムドメイン社のライセンス供与を受け、同技術に基づくスピーカーを搭載しているAV機器がある。
かつての販売製品
*http://www.kai-p.co.jp/vivid/a/a/a31.htmlマンモス本社、株式会社山越
ViVid-F。どうやら、タイムドメイン社のLightと同じものらしい。*http://www.authentic.co.jp/
株式会社オーセンティック:富士通のパソコンの付属スピーカーの生産を引き受け、タイムドメイン・スピーカーの普及と認知度の向上に大きく関わった(現在直接購入できるわけはないが、参考のためのリンク)。
その他
TIMEDOMAIN lightの意匠に似た製品としてhttp://www.goldenfield.com.cn/Dongguan Golden Field Industrial社のhttp://www.goldenfield.com.cn/en/Products_detail.asp?ArticleID=385
JHT-221なる製品の存在が報告されている[http://akiba.ascii24.com/akiba/column/joshibu/2005/07/12/656668-006.html]。
関連項目
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