<メロトロンの知識>
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2007/08/19 日記<メロトロン>
メロトロン
メロトロン(Mellotron)は、1960年代に開発された、主にアナログ再生式(磁気テープを媒体とする)のサンプル音声再生楽器である。アメリカ合衆国|アメリカのハリー・チェンバリンが作成したチェンバリンを元に、イギリスのレスリー・フランク・ノーマンのブラッドレィ3兄弟が、設計と作成を行った。
概要
ハリー・チェンバリンが開発した"Chamberlin Rhythmate"という、テープ音源を用いたリズム/伴奏用のマシン(いわばホームオルガン用のカラオケマシンか)が先祖である。彼自身がこれを応用したテープ音源のオルガンを製作したことからメロトロンの歴史は始まる。鍵盤に対応した音程でそれぞれ録音された、ある音声(音色)を一式揃えておけば、音階を持った楽器として使用できる。これにより弦楽器、管楽器などの音を鍵盤で奏でることを可能とした。また、一定の伴奏パターンや効果音が録音されたテープもあり、メロトロンの原案となったモデルでは(当然、そのコピーである初期のメロトロンでも)左手側の鍵盤に使用された。チェンバリンの会社ではこの楽器を大量生産するのは難しく、製造を依頼する目的でイギリスに持ち込まれ、目をつけたのが楽器用の再生ヘッドを発注されたブラッドレィ兄弟であった。メロトロンは、1963年ブラッドレィ兄弟により設立された「ストリートリー・エレクトロニクス(Streetly Electronics)」社でチェンバリンの楽器を(無許可で)模倣・改良する形で製作され、「リビングルームに設置して一人または二人で気軽に演奏する、家庭用のオルガン」として販売された(販売はロンドンに本拠を置く「メロトロニクス(Mellotronics)」社)。ほどなく若干のマイナーチェンジを経て、ムーディー・ブルース、ビートルズ、キング・クリムゾンらにより伝説を作り上げた「MkII」となる。このモデルは1本のテープにつき3トラック×6ステーション(カセットテープの「頭出し」の要領で各ステーションに停止したテープは、そこから音色の再生を始める)の18音色を収録。左手および右手用として35鍵の鍵盤が2セット、並列に設けられたものである(左手用鍵盤には、前述の伴奏パターンを収録したテープがインストールされている)。一部アーティストによりステージでも使用されたものの、この楽器はあまりにも大きく繊細(かつ高価)であった。鍵盤を1セットにまとめた「M300」を経て、よりコンパクトなバリエーション「M400」が1970年に発表された。前述したステーション構造を廃し、鍵盤も1セットとした。選べる音色が18音色から3音色に減少したのを補うため、35本のテープを一度に交換できる「テープフレーム構造」を採用。MkIIと比べて軽量・コンパクトかつ耐久性のある(メカニズムの簡略化による)楽器となり、その白い外観も相まって認知度は一挙に高まる。ロックやジャズの領域拡大とともにメロトロンを録音やライブで使用するアーティストは増えていき、観客はステージで奇妙な音を出す白い楽器を頻繁に見かけるようになる。イギリスのミュージシャン・ユニオンでは当初、これを使用する事でバイオリンなどの演奏者を必要としなくなり、仕事を奪うものであるという批判がされたが、その特徴的な音は生の管・弦楽器などを代替することはなく、早い内から実際の楽器音とは区別して使われるようになる。例えばレッド・ツェッペリンの「カシミール (曲)|カシミール」などの曲では両者が併用され、見事に役割を演じきっている。原案者であるハリー・チェンバリンとブラッドレィ兄弟は特許および知的所有権で争っていたが、結果的に1966年、チェンバリンがブラッドレィ兄弟に権利を3万ドルで売り渡すこととなる。チェンバリンも1970年以降、自らの会社でテープ再生式の楽器を開発、販売した。もっとも普及した「M-1」はメロトロンよりコンパクトなボディと、よりハイファイなサウンドを持つ。マーヴィン・ゲイやエルヴィス・コステロなど、こちらもメロトロンほどではないにせよ広く用いられた。機構上の欠点として「モーターが非力なため、複数の鍵盤を同時に押さえると音程が下がる」「頻繁に再生・巻き戻しをさせられるテープが傷みやすい」「モーターの回転速度が電圧の影響を受けやすく、音程がフラつく」「複雑なメカニズムを内蔵しているため大きく重く、壊れやすい」「再生ヘッドの品質が悪く、出力された音は蓄音機のように劣化する」などが挙げられる(もっとも、現在ではこれらの特徴は殆どが「味」として再評価され、ノスタルジックかつサイケデリックな音色に魅せられる人はプレイヤー、リスナー問わず後を絶たない)。1970年代中盤にはポリフォニックシンセサイザーやストリングアンサンブルが普及したため、問題を多く抱えるメロトロンのユーザーは次第に減少。経営が悪化したストリートリー・エレクトロニクスは1977年、メロトロンの商標権をダラス・ミュージック・インダストリーへ売却する。その後、メロトロンの名称が使えなくなったストリートリー・エレクトロニクスは「ノヴァトロン(Novatron)」の名称で楽器の開発・販売を続けるが、1986年に倒産した。一方メロトロンの商標権はいくつかの業者の手をわたり、現在はメロトロン・アーカイブス(Mellotron Archives)社を設立したデヴィッド・キーンが保有している。1970年代後半になって、RMIや360といったメーカーからデジタル技術で録音された楽器音を演奏する楽器が登場。PCM音源の発達に伴い、1980年代にはフェアライトCMIやシンクラビアなどの楽器がサンプリング機能を有し、音楽制作の現場で人気を博す。いつしかこの類の楽器はサンプラー(サンプリング・シンセサイザー)と呼ばれるようになった。先祖であるメロトロンの音も初期からサンプリングの対象になったが、代替品として使えるレベルになるのは1993年にイーミュー社からプリセットサンプラー・モジュール「Vintage Keys」が発売されるのを待つこととなる。折からのビンテージキーボード・ブームも手伝い、この楽器はメロトロンのサウンド目当てのユーザーから高く評価された。メロトロンのサウンドは常に一定のニーズがあるため、いくつかのメーカーは、よりリアルなサンプルを提供するよう努力している。なお、現在でもメロトロンは販売されている。カナダでメロトロンの商標を持っているメロトロン・アーカイブス社は、モデル400シリーズの新型「MkVI」などを発売している。レスリー・ブラッドレィの息子らによって再建されたストリートリー・エレクトロニクスでもレストアされた旧型メロトロンを販売している。同社は2007年、M400と似た筐体の中にMkIIと同様のステーション構造をもつ新型メロトロン「M4000」を発表した。音源テープは、この2つの会社それぞれが新規で録音された物も含めて取り扱っている。プログレッシブ・ロックファンからはハモンドオルガン|ハモンド・モーグ・シンセサイザー|モーグと並び3大キーボードと呼ばれることもある。
発音機構
音源となるテープ(右図赤線)は鍵盤(1)と再生ヘッド(6)の間にセットされている。鍵盤にはテープを再生ヘッドに押し付ける「プレッシャーパッド(2)」と、モーター(5)に押し付ける「ピンチローラー(3)」が取り付けられている。鍵盤を押し込むと、テープはモーターとピンチローラーに挟まれて前進しつつ再生ヘッドに押し付けられて発音して、ケースに格納される(4)。鍵盤を離すとテープはモーターの回転から開放され、一端に取り付けられたスプリング(7)によりおよそ0.5秒で巻き戻される。この機構により、a)演奏する際には鍵盤を押した指から力を抜くと音は掠れて止まってしまう。また、b)高速で同音連打を行うと、テープが途中から再生されるため、独特なニュアンスとなる。c)押し込んだ鍵盤をさらに強く押し付けると、抵抗が強くなるため音程が下がり、潰れたような太い音になる。d)勢いよく鍵盤を押し込むと、テープが再生ヘッドに叩き付けられて電気的スパークが発生する。これによってアタックの強い音になる。e)逆に弱く弾くと最初にテープの走行がスタートした後にゆっくりと再生ヘッドに接触するため、立ち上がりの遅い音になる。最初は戸惑う鍵盤タッチだが、使いこなすと鋭いアタックから逆回転風サウンドまで指のタッチでコントロールでき、初期の電子楽器としては表現力はなかなか高い。このような有限の長さのテープを用いた面倒な機構を採用したのは、ピアノなどの減衰音の再生を可能とするためである。楽器音で5.5秒〜8秒と短い持続時間のため、演奏者は長い持続音や和音を演奏するために様々な工夫をした。音色として有名なのはビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」で知られる"Flute"、ローリング・ストーンズ「2000光年のかなたに」やキング・クリムゾン「クリムゾン・キングの宮殿」などでフィーチャーされた"3 Violins"(もっとも多く使用された音色。メロトロンMkII、M400、チェンバリンで共用している唯一の音源だが、再生される楽器によりニュアンスは大きく異なる)、リック・ウェイクマンが自身のソロスポットで用いた他、ジェネシス (バンド)|ジェネシスのトニー・バンクス (ミュージシャン)|トニー・バンクスが愛用した"8 Choir"(男女4人ずつの混声合唱。男女の声を分けた形でも提供された)などが挙げられる。:チェンバリンはテープの巻き戻しにもモーターを使用しており、テープは常にリールに巻き取られている。そのため、筐体を小型化することが可能だった。メロトロンは楽器としての演奏性能を追求したためバネを使った巻き戻しに拘り、小型化には限界があった。その上、スプリングを用いても同音連打した音は立ち上がりが不自然なものとなった。:メロトロンは、全ての機種で磁気テープを録音再生媒体として用いるが、他の方式でのサンプル・プレイバック・キーボードには、光学式ディスクを用いるオプティガン(OPTIGAN)という楽器が挙げられる。これはマテル社が児童向けに開発したものだが、プロ用に作られたオーケストロン(Vako Orchestron)という楽器に発展した。:メロトロンの欠点であった「大きく重く、かさばる」「音色を3つしか選べない」「8秒以上音を伸ばせない」点を改良するために、リック・ウェイクマンはデヴィッド・バイロとともに8トラックテープを用いた「バイロトロン(Birotron)」を開発。イエス (バンド)|イエスのアルバム「トーマト」で使用した(15台ほど作られたが、市場には殆ど出回らなかった)。
代表的なユーザー
メロトロンの代替機種
楽器としてのメロトロンは概要の通り取り扱いにくい面を持つ為、シンセサイザー・サンプラーなどで代用音源・音色などがシミュレートされてきた。しかし、メロトロンの「味」は楽器の機械的特性に因るところも大きく、完全なる再現には程遠いのが現実である。*代替機種として代表的なのは、前述したイーミュー社のプリセットサンプラー・モジュール「Vintage Keys」である。改良型として「Vintage Keys Plus」、廉価版「Classic Keys」、最終バージョン「Vintage Pro」が発売された。イーミュー社の個性か、コンプレッションの掛かったような太くまろやかな音色が特徴で、3 Violins、8 Choir、Brass、Fluteが用意されている。*現在(2006年12月)、スタンドアローン、また各デジタルオーディオワークステーションのプラグインとして動作するソフトウェアシンセサイザー、ジーフォースエムトロン(GForce M-Tron)がエムオーディオ(M-Audio)より発売されている。実存していたメロトロン・チェンバリン等の、代表的な音色を録音し素材として利用している。スタジオでは普及してきたが、動作が重いため、ライブでの使用例はまだ少ない。*2006年にはメロトロンM400の白いボディとよく似た外観をもつデジタル楽器「メモトロン(Memotron)」がドイツのManikin Electronicというメーカーから発売された。専用のCD-ROMもしくは上記M-Tron用のものからサンプルを読み込んで使用する。音の再生に専用の回路を使用しているため、PCのオーディオインターフェースを用いるM-Tronと比べて音の太さ、生々しさで勝っている。ただし、メロトロンの機械的特性の再現には至っておらず、あくまでも実物同様のコントロールが可能なプリセットサンプラーに留まっている。*2007年、スウェーデンのクラビア社の新製品「nord wave」にメロトロンのマスターテープからサンプリングした波形が搭載されることが発表された。サンプル提供はメロトロン・アーカイブス。
参考リンク
Tokyo Mellotron Studio
Mellotron Archives(メロトロンMkVIを開発。英文)
Streetly Electronics(M4000を開発。英文)
Planet Mellotron(使用アーティストのリストなど。英文)
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◆メロトロンについてピックアップ 音源となるテープ(右図赤線)は鍵盤(1)と再生ヘッド(6)の間にセットされている。鍵盤にはテープを再生ヘッドに押し付ける「プレッシャーパッド(2)」と、モーター(5)に押し付ける「ピンチローラー(3)」が取り付けられている。鍵盤を押し込むと、テープはモーターとピンチローラーに挟まれて前進しつつ再生ヘッドに押し付けられて発音して、ケースに格納される(4)。鍵盤... |
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